節分の豆といえば○○○だよね?(すぐに分かったら北国出身!)
2月3日といえば「節分」です。関西地方の伝統的な文化だった「恵方巻」が、いつのまにやら全国でその存在を認知されるようになったのと同じように、最近、じわじわとその版図を広げているある文化があります。今日はそんなお話です。(とはいえ、食に関する文化の受け入れにはアレルギーの方への配慮も必要ですね)
――ことの発端は、いつものずんだ論でした。
そういえば、私もこの福豆を見てから調子が悪くなったような気がする(;゚∀゚) 「福豆だって結局のところは大豆! 大豆ということは枝豆も同然! 枝豆ということはずんだってこと! つまり福豆=ずんだという見事な四段論法!」って考えてるうちに。
まばたきを繰り返しながら、ずん子はこめかみを抑えています。その瞳はどこか虚ろで、こたつの上に置かれた福豆のことを、取り憑かれたように眺めていました。
ずん子の金色の瞳の焦点が、ふわりと、宙に浮きます。室内だから風が吹いていないはずなのに、彼女の艶やかな長髪が、ざわざわと、不気味にざわめきます。
ずいぶん久しぶりですが、きりたんには見覚えがありました。ずん子のこの姿、それは――。
――ず、ずんねえさまのバーサーカー状態……!? 今回は豆に反応したんですか!?
ずん子の小さな顔の中心に輝く金色の瞳が思いきり見開かれます。すると、彼女の身体を緑色の障気が包み込み――弾けるようにして、リビングの空気を波紋状に振動させました。
――……!? い、一体何が……!?
そう。ずん子は時々、ずんだへの愛が暴走する日があるのです。ずんだ餅が好きで好きで仕方がなくて、世の皆さんにもっともっとずんだ餅のことを知ってもらいたくて、時折豹変するずん子のもう一つの人格――それは――
――裏モード“The ZUNDA”――。再び、この目で見えることになろうとは……。
(――3時間後――)
――ぎゃあぁぁっ! 醤油がやられました! 衛生兵、衛生兵ー!!
しのびの眼前では、世紀末のような光景が繰り広げられていました。
しのびが、何かに気付いたようにその場を離れました。ずん子を止めようにも方法が全く考えつかないきりたんとそらさんは、次々とずんだに変えられていく台所のずんだ製品を見て右往左往しています。
『概算ですけどぉ、ご主ずんさまの「大豆センサー(仮称)」は半径約50メートル以内の大豆製品を感知できるみたいですよ~(汗) このまま放置してたらぁ、たぶんご近所の豆まきまで餌食になって、ここのあたり一帯の豆さんがずんだ化させられちゃいます~……』
はははー!! せやろ? (あの巫女、やっぱり一番の要注意人物やな……。でも、今回の案件を片付けるためには、力の籠もったこの福豆――使えるかもしれん。数はそんなに多くないから、弾切れを起こさんよう慎重に……って)
「切り札」をどう使うか、その戦略を立てようとしたしのびの目の前で、きりたんがうさぎの福豆を一つ、ずん子に向かって投げつけてしまいました。驚きのあまり大声をあげてしまったしのびを尻目に、福豆は綺麗な山なりの軌道を描いてずん子に命中し――。
ずん子の金色の瞳が自分たちの方を見ていることに気付いて、しのびが息を呑みます。しかし、彼女の目には護符に包まれた升が映らないのか――すぐに興味を失って、玄関の方へと歩みを進め始めました。どうやら、外から響く「鬼は外!」の声を聞きつけたようです。
――ま、とにかくずんねえさまを追いましょう。今の状態もそれはそれで魅力的ですが、さすがにご近所さまたちにご迷惑をかけるわけにはいきませんからね。正気に戻ったら……ふふふ……久しぶりの「おしおき」チャンスです……。
しのびの言葉に合わせて、彼女の身体から分身体のしのびが音もなく現れます。そして、分身のしのびは草履も履かずに玄関の扉を開こうとしているずん子の背後に忍び寄ると、その両脚に、首元のマフラーを縛り付けました。
――「魔滅」。ずん子がそう呟くと、しのびの分身は妙な断末魔の声を残して、あっという間に溶けて消えてしまいました。
(……ッ!? 先輩、いま「魔滅」って言ったで!? まさか、一介の女子高生が「あの力」を使えるっちゅうんか……!? あ、ありえへん! でも、そう考えれば先輩が「ずんだ」を操作する力を持ってるのにも合点がいく……)
……そんなん使えるんかーい!! ならさっさと使って……あー待ったタンマタンマタンマ!! そんなことしたら福豆当てられないやん!! アカンやん!! ……ぎゃー!! そんなこと言うてるうちにもう玄関出とるであのアホ先輩!!
頭がごった煮になったしのびがくるくると表情を変えながら悶え――その間にも、ずん子は豆を求めて玄関の外へと行軍してしました。接近戦もできず、そらさんの科学力も使えない現状では万策尽きたか――。きりたんたちが諦めかけた、その時でした。
……なんや!? ずん子先輩、様子がおかしいで!?
――う、動きが止まった……!? どうして……!
東北家の玄関の出口。それまでは迷う素振りすら見せずに進軍していたずん子の歩みが、初めて鈍ります。狂気に満ちていた瞳には戸惑いの光が溢れ、纏ったオーラによってまるで軟体生物のように蠢いている深緑の長髪を乱しながら、ずん子は、あちこちを見回しているのです。
わ、わけわからんわアイツ! ご近所さんみんな節分しとるのに、なんで急に気が変わったんや!? そこまで出たら、もう肉眼で豆が確認できるやろ!? 罠か!? 罠なんやな!? そうや罠や!! 危なかったなあ! 飛び込むところだっだで!! さすがうちやな!! はーっはっは!!
(――罠……。そうかもしれませんね。ずんねえさまが以前暴走したとき、ねえさまは十分に理性的でしたし。しかし、今回のずんねえさまの暴走は以前とは違って、「豆」があるかぎりそこへ向かい続けるという、ゲームのNPCのような思考ルーチン……)
(――…………「豆」!? ま、まさか!!)
は!? 正体も何も、近所のガキらは一般人やないか。うちらみたいな特別な能力の持ち主と違って、豆に自分から働きかけることなんてできるわけが――――ッ!?
きりたんが指差した先の子どもに注目したしのびが、息を呑みます。一見なんの変哲もない豆まきの光景。しかし、観察が得意なそらさんとしのびは、一目でその違和感に気付きました。――そう。その子たちが投げているもの。それはまさに――。
――そう。北海道や東北地方では――かなりのご家庭が、節分に落花生を撒くんです。掃除も楽ですし、拾ったあとに皮を剥けば衛生的ですから。思い出してみれば、わたしも幼稚園や学校では落花生を投げてました。つまり――。
ジャラジャラと、背伸びしたそらさんが二門の「きりたん砲」に福豆を注ぎ込みます。護符の貼られた升から福豆が離れたことで、「切り札」の存在をずん子に気付かれてしまいますが――きりたんの口元には、余裕の笑みが浮かんでいました。
(――直進してくる的ほど狙いやすい物体はありませんね……。「きりたん砲」、チャージ開始――!)
――ずんねえさま。いま元に戻してあげます。何が原因か知りませんが、大義も熱意もないまま、機械的にそのお力を濫用するお姿、これ以上見るに耐えません。もしこの場にめたんさんがいたら、きっと、うさぎさんの福豆のことをこう呼ぶでしょうね――。
「きりたん砲」にポンと手を置いて言葉を先取りするしのびに、きりたんが不敵な笑みを返します。呼び名こそ相手を小馬鹿にしたようなものでしたが、二人の言葉は、戦友のような独特の信頼感で結ばれていました。
――節分の日の夕暮れに、特大の花火のような爆音が轟きました。
(――同日深夜・「ふるさと女学院」屋上――)
――カシャン。カシャン。
通信機の向こうの人物が身を揺するたびに、何か金属質のものが擦れ合う音が響いてきます。今日の豆まきで起きた出来事についての報告を終えたしのびの耳には、その硬質の音がどこか、出陣前の気持ちの昂ぶりの漏出のように聞こえました。
『「鬼は外、福は内」……か。懐かしい。……なあ、しのび。どうして「福」の対義語が「鬼」なのか、貴様は知っているか?』
『「鬼」は元々「陰(おぬ)」のなまりだろうと言われている。そして、「陰」の本来の意味は、「普段は隠れているものごと」なのだという。裏を返せば――条件さえ揃えば、表に出てくることもあるということだ』
悪役を自称する割には明るいしのびの声色を聞いて、通信機の向こうに漲っていた緊張感のような、昂ぶりのような空気が、少しだけ緩みます。
『――機は熟した。自分も出よう』
――カシャン。
『この度の「節分の儀」、「赤鬼」一匹では分が悪いと判断した。それに、興味も尽きない。東北ずん子――未だ覚醒していない彼女の「魔滅」の力、自らの剣で受けてみたい』
『しのびの方は異論なさそうだな。……安心しろ。しばらくは別行動だから、貴様の隠密をかき乱したりはしないさ。と、いうことで――よろしいですね、元帥?』
カシャン、と草摺を鳴らして、鎧の少女が両脚を「気をつけ」の姿勢に正した音が響きます。少女の背後に控えていた巨大な球体のような影が蠢くと、ビリビリと空気が震える音が、通信のノイズとなってしのびの下にまで届きました。
『はっ。感謝いたします。では――行って参ります』
しのびが相変わらず脳天気なことを考えている間、通信機の向こうの少女は出陣前の昂揚に身を震わせ、謎の巨大な影は、再び沈黙の中へとその姿を消し去ります。すっかり自分の出番を終えた気になっているしのびまでもが黙ると、その場には、鎧の擦れる金属音だけが響くのでした。
『――――中部つるぎ、出陣する』
――その声を聞いたしのびは、刃物のように鋭利な彼女の視線が、自らを貫いたかのような寒気を覚えるのでした。
――その後、久しぶりに「ずんねえさまにおしおきをする」大義名分を得たきりたんの楽しそうな笑い声が東北の夜に満ちますが、それはまた、別のお話。
――おわり―― (※今回もまとめのコメント欄にて感想をお待ちしています! また、まとめのコメント欄にずん子のイラストを投稿してくださる方も募集中です! コメント欄に投稿していただいたイラストに限り、公式から転載させていただく可能性がありますので予めご了承くださいね。)
次回はこちら http://inove.jp/ivsid1426



























