ボカロ/ボイロ

ハッピーバースデイ

#ずん誕2015 にあわせて、「東北ずん子の誕生日」というテーマで書き始めたのですが……どうしてこうなった。
とくにイタコ姉さんは損な役回りになってしまいました。ファンの方には本当に申し訳ない。

タグ:東北ずん子 東北きりたん 東北イタコ

きりたん02
ことの起こりは、ずんねえさまのお誕生日を一週間後にひかえたある日のことでした。
きりたん02
その日、わたしはずんねえさまへのお誕生日プレゼントについて考えていました。大好きなずんねえさまへのプレゼントは、なにがいいでしょう?
東北きりたん
「やっぱり手作りのアクセサリーとかいいのかな。でも手作りはめんどいし……」
きりたん02
思えば、去年の今頃も同じようなことで悩んでいたような気がします。手作りにするかお店で買うかさんざん迷ったあげく、迷ったあげく……
東北きりたん
「あれ、結局どっちにしたんだっけ?」
東北きりたん
「変ですね。ずんねえさまに何をプレゼントしたのか思い出せません」
きりたん02
たしか、去年、つまりずんねえさまの十七歳のお誕生日は、わたしとずんねえさま、タコねえさまの三人でお誕生日パーティを開いたはずです。
きりたん02
しかし、パーティの記憶そのものがとてもあやふやで、細かい部分がきちんと思い出せないのです。大きなケーキがあったのと、すごく楽しかったということだけはおぼろげながら覚えているのですが。
東北きりたん
「ずんねえさまとの大切な思い出の記憶が消されている……これはまさか組織の陰謀っ!?」
きりたん02
なーんて。わたしは肩をすくめます。最近再放送されているアニメに影響されているみたいですね。とぅっとぅるー。
東北きりたん
「……バカなことやってるうちに時間になりました」
きりたん02
時計の針はとっくに午前0時を過ぎています。わたしは手元にあったリモコンでテレビのスイッチを入れました。
 じつはいまちょっとハマっている深夜アニメがあって、それを観るためにこんな時間まで起きていたのです。そういえば、このアニメに出てくる緑色の和服の人、どこかずんねえさまに声が似ていますね。
きりたん02
…………
きりたん02
次の日の朝。東北家のリビング。
 朝ごはんの席で、わたしはぼんやりと考え事をしていました。
東北ずん子
「――たん、どうしたの? きりたん!」
東北きりたん
「はいっ!?」
東北ずん子
「さっきからお茶碗持ったままぼんやりしてるけど もしかして具合とか悪いの?」
きりたん02
顔を上げると、ずんねえさまが心配そうな表情でわたしの顔をのぞき込んでいました。
東北きりたん
「いえ、大丈夫ですずんねえさま。ちょっと考え事をしていただけですから」
東北ずん子
「そう?」
東北イタコ
「どうせいつもの寝不足でございませんこと?」
きりたん02
と、憎まれ口を叩いたのはタコねえさま。わたしのだいせつなずんねえさまを溺愛する、不届き千万ないちばん上のねえさまです。
東北イタコ
「大方、徹夜でゲームか深夜アニメをリアタイで観ながらツイッターで実況でもしていたんでしょう」
東北きりたん
「……やけにお詳しいですね、タコねえさま」
東北イタコ
「なにかおっしゃって?」
東北きりたん
「いえべつに」
きりたん02
わたしはタコねえさまの視線を無視すると、枝豆入りの味噌汁をすすりました。
きりたん02
じつは去年のお誕生日プレゼントのことが気になって、朝まで寝つくことができなかったのです。おかげでタコねえさまの言うとおり、今日は朝から眠くて仕方がありません。
東北ずん子
「はい、デザートのずんだ餅です!」
東北イタコ
「またずんだ餅ですの? たまには別のデザートも……ああっ、わかりました! ずんだ餅サイコーですからずんだアローをあたしに向けないでくださいまし!!」
きりたん02
もちろん、ずんねえさまかタコねえさまにお尋ねしたらすぐに分かるのでしょうけど、「去年、わたしはずんねえさまに何をプレゼントしたのでしょうか?」とご本人にお尋ねするのも何か変ですし、タコねえさまなんかに頼ったら、後で借りを何倍にして返さなければいけないハメになるものやら。
 やはり、自力で何とか思い出さなければいけませんね。
きりたん02
…………
きりたん02
同じ日の午後。
 学校から帰ってきたわたしは、ランドセルを机の上に置くとばったりとベッドの上に倒れこみました。
東北きりたん
「……ダメです。どうしても思い出せません」
きりたん02
あれから授業中も給食の時間もずーっと去年のお誕生日プレゼントのことを思い出そうと考え込んでいたのですが、しかし結果はまるでダメダメでした。
 あげくの果てに授業をまじめに聞いていないと先生に怒られる始末です。
東北きりたん
「日記なんて書いていないし、せめて写真とかあれば……写真!」
きりたん02
もしかしたら、去年のお誕生日パーティを写した写真の中に、ずんねえさまへのお誕生日プレゼントを写したものがあるかもしれません。
きりたん02
わたしはがばっと起き上がると、スマホをつかんで写真フォルダを開きました。
きりたん02
しかし――
東北きりたん
「そっか、この間ずんねえさまのftmm隠し撮り写真が見つかって、ずんねえさまにフォルダごと削除されたんだっけ……」
きりたん02
あの時はとても悲しくて、同じくftmm写真をぜんぶ消されたタコねえさまといっしょにケーキバイキングでヤケ食いしたものです。
東北きりたん
「ということは、タコねえさまも今はロクな写真を持っていませんよね……」
東北きりたん
「あっ、でもずんねえさまなら写真を残しているかも!?」
きりたん02
その日の夕方、わたしは学校から帰宅したずんねえさまに、去年のお誕生日パーティの写真を見せてくれるようお願いしました。
東北ずん子
「写真? いいよ、それじゃ私の部屋で一緒に見ましょ」
きりたん02
「お茶を用意するから」とずんねえさまに言われて先に部屋で待っていると、しばらくしてお茶とお茶うけのずんだ餅を乗せたお盆を手にしたずんねえさまが入ってきました。
東北ずん子
「今日のずんだ餅は秋田産の湯あがり娘という枝豆でつくったんだよ。それにしても湯あがり娘って名前、ちょっとエッチな感じがするよね」
東北きりたん
「枝豆の名前はどうでもいいですから、はやく写真を」
東北ずん子
「もう、きりたんはせっかちです」
きりたん02
お茶とずんだ餅をテーブルに並べたずんねえさまは、今度は収納棚から古風なアルバムを取り出しました。わたしの隣に座り、テーブルの上でアルバムを開きます。
東北きりたん
「この写真は、バースディケーキのろうそくをずんねえさまが吹き消しているところですね」
東北ずん子
「うん。このずんだ色のケーキ、わざわざケーキ屋さんに特注したんだよね」
東北きりたん
「そう……でしたっけ?」
東北ずん子
「そうだよ。あまり無茶なリクエストはしないでくださいよってきりたん怒ってたじゃない」
東北きりたん
「はあ」
東北ずん子
「次の写真は、と……」
東北ずん子
「うわっ、この写真残していたんだ!?」
東北きりたん
「ずんねえさまがずんだ入りのチーズケーキを食べようと大口をあけている瞬間ですか。ずんねえさまのこういうところもかわいいです」
東北ずん子
「もう、どうしてこんな恥ずかしいところを撮るかなぁきりたん!」
東北きりたん
「これ、わたしが撮ったのですか!?」
東北ずん子
「そうだよ、忘れたの?」
東北きりたん
「……ごめんなさい」
東北ずん子
「ま、許してあげるけどね。あ、これは私が撮ったきりたんの写真だね」
東北きりたん
「ザッハトルテのせいで口のまわりがチョコだらけです。ちょっとはずかしいですね……」
東北ずん子
「きりたんかわいいー」
東北きりたん
「つ、次の写真にいきましょう……」
東北きりたん
「こ、この写真は!?」
東北ずん子
「あー、この時はイタコねえさまがフルーツタルトを食べさせようと迫ってきたのよね」
東北きりたん
「おのれタコねえさま、ずんねえさまに「あーん」を迫るとはなんとうらやましい真似を」
東北ずん子
「あ、あの、きりたん?」
東北きりたん
「…………」
きりたん02
うーん、写真を見ると「ああ、そういえばこんなことがあったなあ」と感じるのですが、なんというか、夢の中のできごとを思い出しているようで、いまいち現実味がありません。
東北きりたん
「それに、肝心のプレゼントを写している写真が一枚もありませんね……」
東北ずん子
「え? なんですか?」
東北きりたん
「いえ、ひとりごとです」
きりたん02
…………
きりたん02
わたしとずんねえさまがリビングに戻ると、仕事から帰宅していたタコねえさまが声をかけてきました。
東北イタコ
「ちょうどよかった。ずんちゃんを探していたのですわ」
東北ずん子
「おかえりなさい、イタコ姉さま。何か用ですか?」
東北イタコ
「ええ、庭にある物置の鍵を探しているのですけど、どこにあるかご存じないかしら?」
東北ずん子
「あ、はい。いま取ってきますね」
きりたん02
ずんねえさまはリビングを出ていきます。
東北きりたん
「…………」
東北イタコ
「…………」
東北きりたん
「…………」
東北イタコ
「随分と浮かない顔をしていますわね。どうかなさったのですか?」
東北きりたん
「べつに、なんでもありません」
東北イタコ
「あら、つれないお返事ですこと」
きりたん02
くすくすと笑い声をあげるタコねえさま。
 そういえば、タコねえさまはずんねえさまにどんなお誕生日プレゼントを贈るつもりなのでしょう?
東北イタコ
「あたしのプレゼントですか? もちろん自分の身体に……」
東北きりたん
「自分の身体にリボンを巻いて『あたしがプレゼントですわ』、とかやるつもりじゃないでしょうね?」
東北イタコ
「うぐっ……も、もちろんジョークですわよ?」
東北きりたん
「わたしは真面目に質問しているんです!」
きりたん02
カチンときたわたしは思わず大声を上げてしまいました。
 タコねえさまがびっくりした顔でこちらを見ています。
東北きりたん
「……すみません。大声を出してしまって」
東北イタコ
「いえ、ちょっとびっくりしただけですわ――でも、本当にどうかなさったのですか?」
東北きりたん
「なんでもありません」
東北イタコ
「もしかして、今年のずんちゃんの誕生日プレゼントを何にするか思いつかなくて悩んでいるとか?」
東北きりたん
「…………」
東北イタコ
「その表情では、どうやら図星のようですわね……」
きりたん02
本当は違いますが、しかし元はといえばわたしがずんねえさまへのお誕生日プレゼントについて悩んでいたのがきっかけですから、まるっきり的外れというわけでもありません。
きりたん02
わたしが何も答えずにいると、タコねえさまは呆れたようにため息を付きました。
東北イタコ
「いいですか、ずんちゃんはきりちゃんのことを愛していますわよ」
東北きりたん
「あいっ……!?」
東北イタコ
「もちろん家族として、ですわ。ですから、ずんちゃんはきりちゃんからのプレゼントならどんなものでもきっと喜んでくれますわよ」
東北きりたん
「…………」
東北イタコ
「だから心配することなんかございませんわ――って、どうしたのですか? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
東北きりたん
「いえ、タコねえさまがそこまで親身になってくれるとは思わなかったので」
東北イタコ
「あたしを何だと思っているのですか……」
きりたん02
タコねえさまはがっくりと肩を落としました。
 てっきりバカにされると思い込んでいたので、正直肩透かしを食らった気分です。
東北イタコ
「きりちゃんはあたしの大切な妹ですのよ。困っていたら手を差し伸べるのは当然ですわ」
東北きりたん
「その、すみません。タコねえさま」
東北イタコ
「まあよろしいですわ」
東北イタコ
「でも……そうですわね、どうしてもプレゼントが思いつかないというのでしたら、ひとつヒントを差し上げますわ」
東北きりたん
「ヒント?」
東北イタコ
「ええ。じつはこの間、ずんちゃんに何かほしいものがあるかそれとなく尋ねてみましたの。するとですね……」
きりたん02
…………
きりたん02
次の日。
きりたん02
わたしはずんねえさまへのお誕生日プレゼントを探すために通販サイトを検索していました。
きりたん02
探していたのは秋田産の「たつこもち」というもち米です。タコねえさまがずんねえさまへのお誕生日プレゼントに青森産の枝豆「青森毛豆」を贈るというので、わたしは同じくずんだ餅の材料であるもち米を贈ることに決めたのです。
きりたん02
なお、タコねえさまがプレゼントを枝豆に決めたのは、ずんねえさまに欲しいものをそれとなく尋ねたところ「ずんだ餅、あるいは枝豆」と即答されたからとのこと。
東北イタコ
「最高級の枝豆と最高級のもち米ですから、ずんちゃんもきっと喜びますわ」
東北きりたん
「枝豆ともち米をプレゼントされて喜ぶ女子高生というのもどうかと思いますけど」
東北イタコ
「それについてはあたしも同感ですわ」
きりたん02
ただ、ブランド米のもち米はそれなりに値段が高く、わたしのおこづかいでは到底手が届きません。そのことを話すと、驚いたことにタコねえさまが資金の協力を申し出てくれたのでした。
東北きりたん
「タコねえさまが妙に協力的なのが、なんだかかえって怪しいのですが……あ、あった!」
きりたん02
たつこもちの通販サイトを見つけたわたしは、さっそく購入を申し込みます。ずんねえさまにプレゼントの内容を悟られないように、商品は念のためコンビニ受け取り指定にしておきましょう。
東北きりたん
「よし、これでオッケーです」
きりたん02
注文ボタンをタップしたわたしは、ふうとため息を付きました。
 目の前の問題を片づけることができたので、とりあえずひと安心です。
東北きりたん
「ですが、結局去年のプレゼントは思い出せませんでしたね……」
きりたん02
プレゼントが決まったので無理に思い出す必要はなくなったのですが、しかしたった一年前の記憶が思い出せないというのはやっぱり気になります。
きりたん02
あの後、恥を忍んでタコねえさまにも尋ねてはみたのですが、タコねえさまもわたしのプレゼントの中身までは覚えていませんでした。
東北きりたん
「今年のプレゼントは忘れないように、しっかりと写真とか撮っておかなければいけませんね」
きりたん02
…………
きりたん02
そして、ずんねえさまのお誕生日当日。
 わたしは自分の部屋のベッドで寝込んでいました。
東北きりたん
「うう、不覚です……」
きりたん02
季節の変わり目だからでしょうか、それとも連日の夜更かしが原因でしょうか。きのうの夜、わたしは急に熱を出してダウンしてしまったのです。薬を飲んでひと晩休んだものの、今日の朝になっても熱は下がらず、結局今日は学校を休むことになりました。
きりたん02
もちろん、夜にやるはずだったずんねえさまのお誕生日パーティも中止です。
東北きりたん
「はあ……ずんねえさまとタコねえさまには悪いことをしました」
きりたん02
もちろん、ふたりともわたしを責めるような真似はいっさいしませんでしたが、みんなが楽しみにしていたはずのパーティを、わたしのせいで中止にしてしまったのはやっぱり悔しいし、ふたりにも申し訳が立ちません。
きりたん02
その思いは、昼ごはんを食べるためにリビングに来た時にさらに強まりました。
 冷蔵庫の中からずんねえさまが作りおきしてくれたおかゆとプリンを取り出そうとしたとき、白いケーキボックスが目に入ったのです。
きりたん02
それは、ずんねえさまのお誕生日パーティに出されるはずのバースディケーキでした。
東北きりたん
「ううっ……」
きりたん02
それを見たわたしは、なんだか自分が情けなくなって泣いてしまいました。電子レンジで温めたおかゆとプリンを食べたわたしは、心の中でねえさまたちに何度も謝りながら早々にベッドに戻ったのでした。
きりたん02
…………
きりたん02
落ち込んだ気分は、夕方になってねえさまたちが家に帰ってきた時も晴れることはありませんでした。
きりたん02
タコねえさまが様子を見に部屋に来ましたが、どんよりと沈んだままのわたしの様子を見かねたのか、ベッドに腰を下ろしてわたしの頭を撫でてきます。
東北イタコ
「まったく、きりちゃんが落ち込む必要はありませんでしょう?」
東北きりたん
「ですが……」
東北イタコ
「パーティは今日でなくともできますわよ。今はゆっくりとお休みなさいな」
きりたん02
「ケーキを持ってきましたから、後でゆっくりお食べなさい」と言い残すと、タコねえさまは部屋を出ていきました。
きりたん02
わたしは、ベッドに横になったまま机の上に置かれたケーキに目を向けます。
東北きりたん
「ふふ、今年のバースディケーキはずんだミルフィーユですか」
東北きりたん
「まったく、ずんねえさまはいつも無茶な注文をなさいます。そういえば去年も……」
東北きりたん
「去年も?」
きりたん02
その時、わたしは自分の発した言葉にはじめて違和感を覚えました。
東北きりたん
「去年のケーキはずんだクリームを使った特注のバースディケーキでしたよね」
きりたん02
先日、ずんねえさまと一緒に見た去年のお誕生日パーティの写真で、それは明らかです。
東北きりたん
「あれ? でもわたしが撮ったというずんねえさまが大口を開けていた写真は……?」
東北きりたん
「わたしが口のまわりを汚しながら食べていたのは……?」
東北きりたん
「タコねえさまが不届きにもずんねえさまに食べさせようとしていたケーキは……?」
きりたん02
熱でぼんやりする頭で、必死に考えます。
きりたん02
と、その時。がたんという音が階下から聞こえてきました。
東北きりたん
「な、なに……?」
きりたん02
その音は、リビングの方から聞こえてきたように思えました。
 わたしは身体を起こし、ベッドから降りると寝間着姿のまま自分の部屋を出ます。
きりたん02
ふらふらする頭を抱えながら階段を降りるのは少し骨が折れました。何とか転ばずに階段を降り、足音を忍ばせてリビングに近づきます。
きりたん02
リビングからは、誰かがごそごそと動いているような気配が感じられました。
東北きりたん
「もしかして、わたし抜きでお誕生日パーティをしているのかな……」
きりたん02
そんな疑念を抱きながら、わたしは、ほんの少しだけ開いていたリビングの扉から中を覗きこみました。
きりたん02
ああ。
 いま思えばその疑念が的中していたほうがどれほど良かったでしょうか。
きりたん02
わたしが見たのは、想像を絶する光景でした。
きりたん02
リビングの椅子に座っているのは、いえ、ロープのようなもので縛り付けられているのは、うつろな瞳のずんねえさま。頭には奇妙なアンテナやコード、ランプがつながっているヘルメットをかぶっています。
きりたん02
ずんねえさまは意識がはっきりしていないのか、ぶつぶつと何かをつぶやきながら、しかし椅子から立ち上がったり逃れようとするそぶりをみせません。
きりたん02
一方、椅子の横にはタコねえさまが立っていて、テーブルの上に置かれた奇妙な箱型の機械のスイッチを入れたり、ダイヤルをいじったりしています。
きりたん02
よく見てみると、その奇妙な箱型の機械からは何本ものコードが伸びていて、それらはすべてずんねえさまのかぶっているヘルメットにつながっています。
東北きりたん
「なに……あれ……」
きりたん02
異様な状況に理解が追いつかないまま見続けていると、やがてずんねえさまがかぶっているヘルメットのランプがちかちかと点滅をはじめました。同時に、ずんねえさまの身体が二度、三度びくんびくんと痙攣します。
東北イタコ
「そろそろOKですわね」
きりたん02
そんなずんねえさまの様子を無表情で見下ろしていたタコねえさまは、しばらくして箱型の機械のスイッチをパチンと切りました。途端にヘルメットのランプが消え、ずんねえさまは力なく頭をうなだれます。
きりたん02
その耳元に、タコねえさまが顔を近づけました。
東北イタコ
「これから簡単な質問をいたしますので、正直に答えてくださいな」
東北ずん子
「はい、イタコ姉さま……」
東北イタコ
「ずんちゃんは今日、何歳になったのかしら?」
東北ずん子
「十八歳です……」
東北イタコ
「あら、本当かしら?」
東北イタコ
「もう一度お聞きしますわね。ずんちゃんは、今日、何歳になったのかしら?」
東北ずん子
「十八歳……」
東北イタコ
「本当に?」
東北ずん子
「じゅうはち……」
東北イタコ
「もう一度」
東北ずん子
「じゅう……なな……」
東北イタコ
「よく聞こえませんわ。きちんと答えなさいな」
東北ずん子
「十七歳……です」
東北イタコ
「よろしい」
東北きりたん
「……!!」
きりたん02
それを見た瞬間、わたしはすべての記憶を思い出しました。
東北きりたん
「そうだ……」
東北きりたん
「わたしは……去年も、おととしも、その前の年も……ずんねえさまの十七歳のお誕生日をお祝いしていたんだ……」
きりたん02
先日、ずんねえさまと一緒に見た「去年の」お誕生日パーティの写真。写真ごとに食べているケーキの種類が違っていたのも、これで説明がつきます。きっと、あれは去年以前の写真も混ざっていたに違いありません。
きりたん02
去年のパーティのできごとやプレゼントが思い出せなかったのは、おそらくあの奇妙なヘルメットと機械で記憶を消されていたのでしょう。
きりたん02
それにしても、驚きなのは謎の機械を操作していたのがタコねえさまだったということ。
東北きりたん
「タコねえさま、どうしてこんなことを……?」
東北イタコ
「さて、きりちゃんのほうもそろそろ薬が効いてきた頃合いかしら」
東北きりたん
「!」
きりたん02
椅子に縛られているずんねえさまの足元には、食べかけのミルフィーユが落ちています。
東北きりたん
「そうだ……次にあの機械で記憶を操作されるのは、わたしなんだ!」
きりたん02
恐怖にかられたわたしは、扉から一歩、二歩後ずさると、くるりと後ろを向いてその場を逃げ出しました。
きりたん02
階段を駆け上り、自分の部屋に飛び込むと、いままで一度もかけたことのなかった自室のドアの鍵をかちゃりとかけます。
きりたん02
…………
東北きりたん
――……わたしは今、この手紙を自分の部屋で書いています。
東北きりたん
わたしは、ずんねえさまのお誕生日にまつわる恐ろしい事実を知ってしまいました。おそらく、タコねえさまもそのことに気づいているのでしょう。さっきまで鍵のかかったドアをしきりにノックをしていたのですが、あきらめたのか今は何も聞こえません。
東北きりたん
とはいえ、この部屋にいつまでも閉じこもっているわけにもいきません。水もないし、食べ物も部屋にあるのはずんねえさまに贈るはずだったプレゼントのもち米くらいで、もちろん炊飯器なんてありませんから食べることはできないのです。
東北きりたん
ああ、今にして思えば、タコねえさまがプレゼントにもち米を薦めてきたのは、それが形の残らないプレゼントだからという理由に違いありません。タコねえさまにとって、形の残るプレゼントは自分がやっている悪行の証拠になりますからぜひとも避けたかったのでしょう。
東北きりたん
スマホで助けを呼ぶ事も考えましたが、肝心のスマホが部屋から消えていました。おそらく、タコねえさまが薬の盛られたミルフィーユを持ってわたしの様子を見にきた時に、こっそり持ちだしたのだと思います。
東北きりたん
それに、スマホで助けを呼んだところで「姉が妹の記憶を消そうとしている」という言い分を誰がまともに取り合ってくれるでしょうか?
東北きりたん
いずれにしても、タコねえさまがこのまま引き下がるとは思えません。タコねえさまは何としてもわたしを捕らえ、あのおぞましい機械を使ってわたしの記憶を消してしまおうとするでしょう。ずんねえさまがリビングでやられたように。
東北きりたん
この手紙は、もしそうなってしまったときの、未来のわたしへの警告として書いているのです。
東北きりたん
ですが、こちらも素直にやられるつもりはありません。窓から雨どいをつたって脱出してもいいし、それにわたしには背中のきりたん砲があります。体調は万全ではありませんが、不意をつけばタコねえさまを足止めするくらいはできるかもしれません。
東北きりたん
さて、当面必要な身の回りのものはまとめてバックにつめました。この手紙を机の下に隠して、そろそろけりをつけましょう。
東北きりたん
…………
東北きりたん
おや、窓の方から音が聞こえますね。ここは二階なのに……
東北きりたん
…………
東北きりたん
いや、そんなバカな!
東北きりたん
銀色の狐耳が、尻尾が! 窓に! 窓に!
きりたん02
―終―