ある冷めた夫婦
高校の時、所属していた「文芸倶楽部再興委員」の同人誌に掲載したもののリライトです。筋はそのまま、アイノベ用にしてみました。
なにか面白いもの、ありました?
…いや、別に…
あら、そうですか?でも、さっきからずっと新聞に穴が開くほど見ているじゃないですか。
そうでもないだろ。
……
いいお天気だし、お出かけになったらどうですか?
……
……
……
おい
おいったら。
なんですの?
昼飯はまだか?
まだお昼前ですよ?
別に時間通りに食べなくてもいいだろう。
……
なにか召し上がりたいもの、あります?
別に何でもいいよ。
チーズトースト作ってくれ。
チーズトースト作ってくれ。
今朝もチーストーストだったじゃありませんか。
何だ?!
1日に2回食っちゃだめなのか?
1日に2回食っちゃだめなのか?
そうじゃありませんけどね。
歳も歳ですから、そろそろコレステロールのこととか気にしたほうがいいんじゃないかと思ったのよ。
歳も歳ですから、そろそろコレステロールのこととか気にしたほうがいいんじゃないかと思ったのよ。
まだ定年退職してから1年も経っていないんだぞ?
長寿社会、まだまだ働ける歳じゃないか。
長寿社会、まだまだ働ける歳じゃないか。
……
そうですね。
……
はい、お待たせしました。チーズトースト。
2枚目はもうすぐできますから。
2枚目はもうすぐできますから。
うむ。
あちっ!
熱いなぁ、これ。
熱いなぁ、これ。
あら、そんなに急いで召し上がらなくても。
違うだろ?!
こんな熱いのを持ってくるのがいけないんじゃないのか?
こんな熱いのを持ってくるのがいけないんじゃないのか?
料理は熱々を供さないと、がモットーなんですけど。
いつもはそんなに熱くないだろうが。
それはあなたが新聞とかテレビに熱中していて、せっかく出したのに、なかなかお箸をつけないからですよ。
オレのせいだって言うのか?
そうは言っていませんけど……
いや、今、明らかにオレのことを馬鹿にしながら言っただろ。
だから、そんなことありませんってば。
熱いのを食べたのもオレが悪いと。
食べるものの温度くらい、自分で確認なさったらどうです?
わたしはそこまで管理できませんよ。
わたしはそこまで管理できませんよ。
いつオレがお前に管理を頼んだんだよ。
ご自分のことは何一つできないじゃありませんか。
自分の皿くらい、自分で洗えるぞ。
あら、わたしのお皿は洗ってくださらないんですの?
お前のなんか知らん。
じゃあ、ご飯もご自分で作られたらどうでしょう?
そこまでおっしゃるんであれば。
そこまでおっしゃるんであれば。
そこまでは言っていないだろうが。
オレは、こんな熱いのを持って来て、口の中を火傷したということで文句を言っているんだ。
オレは、こんな熱いのを持って来て、口の中を火傷したということで文句を言っているんだ。
冷めたチーズトーストなんて美味しくないじゃありませんか。
誰も冷たくなったのを持って来い、とは言っていない。
食べ頃のものを持って来ればいいだろうが。
食べ頃のものを持って来ればいいだろうが。
こっちだって忙しいんです。
できたらすぐに持って来るので、ご自分で頃合いをはかって召しあがればいいだけじゃないですか。
できたらすぐに持って来るので、ご自分で頃合いをはかって召しあがればいいだけじゃないですか。
お前は、ほんと、ああ言えばこう言うだなぁ。
いつからそうなったんだ?
いつからそうなったんだ?
あなたって、たまに口を開くとそういうことばかりおっしゃるのね。
まだ退職してから半年も経っていないというのに。
まだ退職してから半年も経っていないというのに。
「まだ働ける」っておっしゃるけど、仕事する気なんて全然ないくせに。
何だ、その言い方は。
40年近くずっと働いてきたんだ。
少しくらい休ませてくれたっていいだろうが。
40年近くずっと働いてきたんだ。
少しくらい休ませてくれたっていいだろうが。
あら、わたしだって少しくらい休みたいわ。
お前がいつ働いたって言うんだ?はん?
そんなことおっしゃるんなら、家政婦でもお雇いになればいいんです。
……くんくん
……くんくん
あっ!台所がっ!
二人の議論が白熱する中、トースターも加熱しすぎた。
呆然とする夫婦の目の前の、すっかり焼け落ちてしまった家のトースターの中からは、黒焦げた後、水浸しになり、すっかり冷え切ってしまったチーズトーストが見つかった。