人は、「目に見えないもの」を自分の都合のいいように解釈するものです。幽霊とか、超常現象とか――服の下の身体のラインとか
「全部見えた」ときのすばらしさと、「全部見えない」ときのすばらしさは、それぞれ独立しています。例えばオリンピックで快進撃を続けるサッカー男女の中継も、スタジアムで全体の動きを見ながら観戦するのと、TVでボールに集中して観戦するのとでは、視点が変わってくるでしょう。そう、つまりサッカーにもあるのです、「見せないエロス」が!
――お疲れさまでした、ですわ(*'ω'*) また何かあったら、おいでくださいね。
今日は、年に一度の「一日イタコ署長」の日です。山の中腹に建てられた小ぶりな神社まで出張して、一日中、周りの市町村から集まってきた人びとから、霊脳関係の悩み事を聞くのです。体力も精神力もガリガリ削られる役目ですが、イタコ姉さまは結構楽しそうにやっていました。
はぁい、次の方どうぞですわー!ヽ(*^ω^*)ノ ……って( ゚д゚ )
――悪い子はいねがー。
こんばんはヽ(*^ω^*)ノ イタコ姉さま。お客さん、私たちで最後ですよ。
そう言いながら入ってきたのは、ずん子ときりたんでした。二人が仕事場に顔を出すなんて滅多にないことなので、イタコ姉さまは若干戸惑います。
今のお客さん、すごくすっきりした顔してましたねー(ノ▽〃) どんなアドバイスをしたんです?
まあ、いつも通りですわ。「あなたが取り憑かれてると思っている幽霊さんは、『あなたの思い込み』です」ってお伝えしただけです(´・ω・`) 証拠つきで。
――案外、元も子もないことを言うんですね。
カウンセラーみたいな仕事がほとんどですから、イタコって。「得体の知れない何かに取り憑かれているに違いない」なんていう考えはほとんどが思い込みですから――それが精神のバランスを保つことに貢献しているならともかく、それ自身が悩みの種になっちゃったら、ちゃんと指摘してあげないと。
プロフェッショナルと呼んでくださいな(`・ω・´)
――ひゅーひゅー、クールですねえ。
普段の言動に似合わず、堅いことを言うイタコ姉さまの姿を二人が茶化します。イタコ姉さまは、少し照れながら立ち上がると、「じゃ、帰りましょうか」と言って、下山の準備を始めました。
それで、何しに来たんですの?(o'∀'人) いくら近所の山だとはいえ、わざわざこんな夜遅くに来なくてもいいのに。
――だって……ねえ? ずんねえさま。
うん(´・ω・`) 夜の山を一人で下るなんて、姉さま耐えられないでしょう……。
い……いつの話をしてますの!? そりゃあ、昔はちょっと苦手でしたけど……もう一人前のイタコになったんですから、夜道くらい普通に歩けますわよ!?(ノω=`)
――どうですかね(ニヤニヤ
あー! 疑ってますわね!?ヽ(`Д´)ノ じゃあ、あたしが先頭を歩きますから着いてきなさいな!
そう豪語すると、イタコ姉さまは雄々しく第一歩を踏み出しました。その姿は、まるで某名作アニメの第1話『イタコ姉さま夜道に立つ』がごとき堂々たる姿でしたが――。
ひっ……!∑(゚ω゚ノ)ノ
風に揺すられてガサガサと鳴った葉擦れの音に、早速縮こまってしまいます。
な、なんですの……?(゚´ω`゚)
――近ごろ、心霊スポットスレでこの山が多く取り上げられるんですよ……。なんでも、「人魂」の発見報告が相次いでいて。
(心霊スポットスレなんてものがあるんだ……(゚ω゚) ネットの世界は奥が深いなあ……)
――しかもこの人魂、通りがかった歩行者を「襲う」みたいです。青白く光っている何かを見かけて、つい気になって調べに行った人たちの体験談ですから、間違いありませんよ。
ちゅっ……((( ;゚Д゚))) お……おほほほほほほほ! そ、それこそ目の錯覚ですわ! 思い込みですわ! 確たる証拠も提示できないネットの情報なんて、むやみに……。
――それが、写真もあるんです。それを撮影した人は、知らぬうちに山の麓まで運ばれ、目を覚ましたようですけど……。
ガタガタガタガタガタガタガタ((( ;゚Д゚)))
(あはは(*´∀`*) イタコ姉さま、右足と右手が同時に前に出てる……)
どこまでが作り話か分かりませんが、きりたんがイタコ姉さまの反応を見て楽しむために怪談をしていることは明らかです。自然と大股で歩くようになったイタコ姉さまと、それに合わせて早足で歩く妹二人。いつの間にか神社からすっかり離れ――虫の声だけが響く、真っ暗な道を歩いていました。
……あれ?
あまりにも暗い道。そんな道を歩いているものですから、何かが光ったら、すぐに分かります。
――いま、林の奥の方に青白い光が見えたような……。
( ゚д゚ )「」
――あらら。どうやら嘘ではなかったみたいですね……。
(――ありがとうございます、ずんねえさま。ナイス追い打ちです)
楽しそうにイタコ姉さまを追い詰めようとするきりたんが、ずん子のフォローに感謝の意を述べます。きりたんにとってみたら、「自分の怪談のためにずん子が力を貸してくれた」という解釈のようです。
いや、そういうのじゃないんだよ、きりたん。……ほら、林の向こう、左斜め奥の方。
――え?
ずん子は、きりたんの方などチラリとも見ておりませんでした。彼女は呆然と立ち尽くして、森の中のある一点を指差しています。ずん子の言葉が期待していた返答と違ったきりたんは、慌てて彼女の視線の先を追うと――。
――あ。ほ……ホントですね。
ややややいやいやいや、あ、アレはただの懐中電灯の光ですわ! 一見非科学的に見える全ての現象にはわけがあるんですわ! わ!ヽ(*`ェ´*)ノ
――え、ええ……。イタコねえさまのおっしゃるとおりですね。わ……わたしにも懐中電灯の光に見えます。
――み、見間違いじゃないですか?
さ、錯視ですわずんちゃん! それがまさに錯視ですわ!。゚(ノ∀`*)゚。
――ちょ、ちょっと!? ずんねえさま!?
ずん子は興味津々といった様子で両手をぽん、と合わせると、ずんだずんだという軽やかな足取りで茂みの中を分け入っていきます。
――べ、別にわたしはこわがってませんよ? タコねえさまが怖いからって、わたしに罪をなすりつけないでください。で……でも、そうですね! タコねえさまが怖いなら、無理して調べに行かなくても……。
大丈夫、大丈夫!(=ず・ω・だ=)ノ(=ず・ω・だ=)ノ
ずん子の後ろで醜い言い訳争いが勃発していますが、マイペースな彼女は全く聞き入れようとしません。懐中電灯説を信じているのか、幽霊が出てきても仲良くなれると思っているのか、あるいは単純な好奇心からか――ずん子の足取りは軽やかで、ちっとも緩む気配を見せませんでした。
ある意味で、全く臆することなく歩を進めるずん子の背中こそが、悪魔のそれに見えたことでしょう。きりたんとイタコ姉さまは、そんな感じのフラグめいたセリフを残して踵を返そうとします。
――あ……あれ?
なんか、右にも左にも……後ろにもウネウネとした光が見えるのですわわわわわわWAWAWAWA
――ガサガサッ!
――「」
ぎゃあ!。・ ゚・。* 。 +゚。・。* ゚ + 。・゚・(ノД`)
何者かによって茂みが思い切り揺らされ、きりたんとイタコ姉さまが敏感に反応します。ずん子も意表を突かれたように音がした方に視線を向けますが、驚きはしたものの、怖がりはしませんでした。
……あら? ずん子と……そのご一行様じゃない。わたくしの縄張りで何してるのよ。
め、めたん様!?∑(゚ω゚ノ)ノ
「警戒区域」に侵入してくる連中がいるから来てみたら――あなたたちだったとはねえ。来るなら事前に一声くらいかけなさいよ。……わたくし、携帯とか持ってないけど。
縄張りって何のこと?(;´・ω・) まさか、山で野宿してるんじゃ……。
ふっ……ふふふふふふふっ/// このわたくしが!? 山で野宿!? そんなわけ……。
……あるんだなこれが……。
はぁ……。と漬け物石くらいの重量はあるであろう溜息をつくめたんの顔は、まるで劇画調マンガ全盛期のような深い彫りと影に覆われていました。悲壮感漂う痛々しいその姿。ずん子が咄嗟にフォローに入りかけますが、めたんは反射的に、それを制しました。
別に、構わないの。わたくしの「還る場所――実家――」が没落してからもう三年だし、こうやって「生死の境界に息を潜めて暮らす――サバイバル――」のにも慣れたものよ。とりあえず、植物にキスしてエネルギー吹き込んでおけば縄張りの目印代わりにはなってくれるし。
そう言うと、めたんちゃんは手近に咲いていた花を摘み取って、ずん子に見せつけるようにキスをしました。すると――。
摘み取られた花の根っこ、茎、花弁がウネウネ動いて、まるで動物のように暴れ始めます。よく見ると、先ほどからずん子たちが追いかけてきた謎の発光体も、めたんが作った縄張り感知器のようでした。
わたくしの力、生き物にしか使えなくて。普通に電力とかガス代わりになれば一攫千金なのにね。――ほら、アンタも行ってきなさい。
まるで意思を持った生命体のようにウネウネ動く謎の花は、発光しながら「縄張り」の偵察へと向かいました。確かに、めたんの能力を実用化するために、生命を与えられたエアコンが拗ねたり、ガスコンロが笑顔で語りかけてきたりしても――なんというか不気味です。一般受けはしません。
……で、ずん子。あなたのお姉さんと妹、大丈夫? さっきから――。
幽霊は科学的には存在しないそれは多くの場合において受け手の人間の錯視であり幻聴であり思い込みの産物であるのだそうだからあたしの目の前にあるこの白い発光体は幽霊ではなくあたし自身の錯視であるがゆえにあたしは勇気を振り絞ってその正体を確認しなければならないイタコとして姉としてなにより
――世界には二つの事象が存在する「科学的な」ものと「非科学的な」ものなのだそして非科学的なものはいずれ科学的なものに駆逐される運命なのださあきりたん、お前はその一歩を踏み出せ非科学的な現象を科学的に説明するのださすれば世界はより一層の秩序と清廉さでもって君を迎え入れてくれるだろう
白目を剥いて泡を吹きながらブツブツブツブツブツと呟き続けているイタコ姉さまときりたんは、傍から見ると彼女たち自身が妖怪です。さすがに放ってはおけません。
家に連れて帰らないと……(;-ω-)ゞ めたんちゃん、きりたんの方をお願いしてもいいかな?
……えー。嫌よ。どうしてわたくしの得意な『漆黒の』時間に他人のお守りなんか……。
お礼に、お風呂とお食事用意してあげるから! ね?(o'∀'人)
乗ったわ!(即答)
(――30分後、東北家・居間――)
――……っは!?(ガバッ
はっ!? ですわ!(*`ロ´ノ)ノ(ガバッ
ずん子とめたんによって東北家へと運び込まれた二人の姉妹は、ほとんど同時に目を覚ましました。
――あ……あれ? 確かわたしは、山の神社にタコねえさまをお迎えに行って……(チラッ
な、なんでこんなところで寝てるのかしらですわ……(;゚∀゚)(チラッ
戸惑っていた二人の姉妹の視線が重なります。お互いの額の汗、乱れた和服、そして何よりいつもより青白いお互いの顔色には、いまだ恐怖の痕が生々しく残っています。お互いの姿を確認することで、二人は、全てを思い出しました。
――……結局、「タコねえさまの」怖がりのせいで、わたしまで被害にあったということですか……。
「きりちゃんが」怖がりすぎたせいで、あたしまで余計な恥をかいてしまいましたわ……(・ε・`*)
――……ほう。タコさんの目には、そういう風に映ったということですか。やはり人間とは起きた現象を都合良く解釈するものですね。自分が怖がって気絶した罪を、わたしになすりつけるなんて……。
……お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな……(`ε´*)
望むところですわ!(`・ω・´) まあ、懐中電灯の光を見てすぐに気を失ったきりちゃんには負ける気がしませんけれども(´>∀<`)ゝ
おほほほほほほほほほほ……。
――スタート!(ダッ
ですわ!(ダッ
しばしのにらみ合いの後、二人が同時に号令をかけます。それとともに、怖がりな二人の姉妹は、憤怒の表情で家を飛び出していきました。
~♪ いい湯だったな~(ガチャ
姉妹が飛び出していった東北家の居間に、入れ替わるようにして、ミニスカ和服の少女と、白ロリの少女が入ってきます。二人とも髪の毛が少しだけ湿っており、頬は上気しています。お風呂のあとなのでしょう。
はぁ……気持ちよかった。やはり、闇の遣いにも命の洗濯は必要ね……。スーパー銭湯じゃ落ち着いて浴槽に浸かれないし……。
めたんちゃん、意外と着やせするタイプ?(ノ▽〃)
裸の付き合いを経たことによって、ずん子からめたんへの呼び名も、「めたん様」から「めたんちゃん」へと変化していました。いや別に、お風呂の中で何かがあったわけではありませんが。
うるさいわね/// そんなこと、歯牙にかけるに値しないでしょうに。それよりも……。
? なにか心配事でもあるの?
わたくしがいなくなったから、山に残してきたあの子たちがどんな動きをするか分からないのよ。一応、明日の朝には電池切れ状態に戻ってるはずだから、そうそう誰かに目撃されるとも思わないけど……。
ま、心配しても詮ないことね。ずん子、なにか食べ物をちょうだい。ずんだ餅がいいかな。
うん! いま用意するね!(=ず・ω・だ=)ノ(=ず・ω・だ=)ノ
――結局。主がいなくなって統制を失った光る植物群との邂逅によって、二人仲良く気を失ったイタコ姉さまときりたんの断末魔の叫び声――それがあまりに大きく、夜の街に響き渡ったことで、「恐怖の叫び声」という新しい逸話が掲示板を盛り上げますが――それはまた、別のお話。
※なお、女性の夜道の一人歩き、一人野宿は大変危険です。イタコ能力、ずんだアロー、きりたん砲、あるいはメタンハイドレード操作の能力を持たない女性は、十分にお気をつけ下さい。
――おわり――
次回はこちら http://inove.jp/ivsid1403













