ブルマ――滅びつつある現代の文化をたずねる
大多数の平成生まれの子どもたちにとって、「ブルマ」という体操服がかつて存在していたことは、伝聞と写真のみでしか、知ることができなくなっているようです。彼らには「自分が小学生のとき、好きな女の子が身につけていた衣服」としてのブルマへの思い出は存在しません。時代は移ろい、文化は流転します。寂しいことではありますが、ハーフパンツもこれはこれで……。
スターターピストルが鳴り響く運動場を、地元の人やら父兄やらが人垣を作って眺めています。その中の一人、イタコ姉さまは、皆のために作ってきたお弁当を左手にぶら下げ、右手でビデオカメラ(いわゆるハンデ○カム)を動かしながら、遠い目をしていました。
そう。今日はずん子たちが通う「ふるさと女学院」の運動会なのです。
あ……ああ、そらさん(´ω`)ノシ いえ、実はものすごく懐かしくて、ついつい『三○目の夕日』を見に行く昭和世代の方々のお気持ちになりかけていたというか……(;´・ω・)
『…………? イタコさまもぉ、昨年までは高校生だったと思うんですけど~? まだまだ老け込む歳じゃありませんよ~♪』
いえいえ、「運動会」そのものが懐かしいんじゃありませんわヽ(´∀`)ノ
「?」と首を傾げるそらさんも、ちゃんと「ふるさと女学院」指定の体操服を身につけています。彼女の胸の膨らみに引っ張られて、上半身を覆う綿100%のシャツがかわいそうなほどに変形していますが――イタコ姉さまの視線はそこではなく、彼女の下半身へと注がれているのでした。
ブルマ!ヽ(≧▽≦)ノ この時代に! ブルマ!ヽ(≧▽≦)ノ が見られるなんて僥倖ですわ!ヽ(≧▽≦)ノ さすが「ふるさと女学院」ですわね!!
――そう! なんと、本日の運動会限定で、女学院の生徒の半数がブルマ着用を義務付けられているのです! イタコ姉さまは感涙に打ち震えながら、モデルのようにすらっとしたそらさんの下半身をビデオカメラで撮影します。
――…………ふふふ、分かってませんね、そらさん!(ババァーン
『あ……あなたは女子力(2)……じゃなくてきりたんさまぁ!?』
――ちょっと低すぎやしませんかわたしの女子力……。
そらさんとイタコ姉さまの会話に――そうといえるほど表情筋を動かしてはいないけれど、雰囲気から明らかにそれと分かるレベルの自慢げな――ドヤ顔で割り込んできたのは、きりたんでした。しかし、なんと彼女はブルマではなく、黒のハーフパンツを身につけています。半数に入れなかったようです。
『まあ、驚いてみましたけどぉ、きりたんさまが女子力低いのは今に始まったことじゃないですよねぇ♪ まーくつーのスカウターが「オヤジ力」メーターだったらぁ、常にハイスコアかもしれないですけど~♪』
「オヤジ」呼ばわりはさすがに不本意だったのか、きりたんは全力で抗議します。「――なんならわたしのキャピキャピ力を開放してやりますよ!」と豪語したきりたんでしたが、その真横を、ブルマを履いたずん子が駆け抜けていきました。徒競走です。
キャー!ヽ(≧▽≦)ノ ずんちゃーん! 頑張ってですわー!( *'3`)ノ
――ずんねえさまのブルマ姿!? したたり輝く汗!?(バッ
――……今日は日が悪いんです。明日から本気出します。
キャーキャー!(≧▽≦)ゞ ずんちゃん1着ですわ!! さすが毎日あのクソ長い裏山の石段をのぼって弓道場まで通っているだけありますわー!!∑d(゚∀゚d)ォゥィェ!! 健脚女子ですわー!!
カメラを構えてキャピキャピとはしゃぐイタコ姉さまの姿はそれなりに姉バカでしたが、若さゆえの特権か、姉バカであっても満面の笑みを浮かべている彼女は魅力的に映るものです。イタコ姉さまが女子力を取り戻していく一方で、その隣では、きりたんが開き直っていました。
――ふーんだ。どうせ(1)まで堕ちるんなら、今日はそらさんに体操着の魅力について語り倒してあげる日にします。ええそうしますとも。わたしに体操着を語らせたらすごいもんですよ。
『はあ……。じゃあ、お願いします~。でも、ブルマとハーフパンツって一目で分かりやすくていいですねぇ、ってことは理解できますよ~♪ 運動会の組み分けに最適ですね~♪』
え!?∑(゚◇゚ノ)ノ この運動会、下に何を履くかで組み分けしてるんですの!?
――組み分けも分からないなんて、今まで何してたんですか、このタコねえさま。ずんねえさまの勇姿ですか? ずんねえさまの勇姿ですよね? 確かにずんねえさまの勇姿を見るだけなら組み分けとか気にしなくてもいいですものね。ということであとでそのビデオダビングしてくださいね?(ニコッ
そらさんの言うとおり、今年度の「ふるさと女学院 大運動会」は、「紅組・白組」ではなく、「ブルマ組・ハーパン組」による争いが繰り広げられているのです。さしもの「ふるさと女学院」も、常日頃の体育の時間から、ブルマを身につけているわけではありません。
――その通り。ブルマ文化はいま、絶滅の危機にあるのです。わたしはハーパンも好きですけど、とりあえず今日はブルマについて、ですね。ほら、見てください! ずんねえさまの麗しきブルマ姿……って、ああっ!?
……きりちゃん? ずんちゃんのブルマに何が……って、ちゅっ!?∑(゚ω゚ノ)ノ
自慢げにずん子を指差したきりたんの目が、驚愕に見開かれます。それに次いで、彼女の頭のうえから顔を出したイタコ姉さまも――ずん子の「ブルマ」を見て、思わず声を出してしまいました。
『あ~♪ ご主ずんさま(96)のブルマ、ちょっとだけめくれてますね~♪ さっきの徒競走のとき、何かあったんでしょうか~?』
――ち、チャンスですよこれは!! この状況をうまく利用すれば、わたしですら生で見たことのない、ブルマ文化の最たる現象が見られるかもしれないのです!!
とにかく、ずんちゃんに早く知らせないとですわ!(*`ロ´ノ)ノ できればそれとなく伝えて、気付いてくれるのが一番なんでしょうけど……。
ずんちゃん、こっちに気付いてくれないでしょうか……(*'Д'*)ノシ(オーイ
ずん子のブルマを見て、姉妹が別のベクトルで興奮します。ずん子のブルマの一部がめくれかかっているという現状があり、それをピンチと取るかチャンスと取るかは姉妹の間で意見が割れましたが、その解決のためには一致団結できそうです。
――あ。さっそく気付いてくれましたね。さすがずんねえさまです。
ボディランゲージですわ!ヽ(`Д´)ノ ずんちゃん、ずんちゃんに異変が起こってますわ!! 気付いてくださいな!!
イタコ姉さまときりたんが、それぞれ自分たちの方法で大きなジェスチャーをずん子に送ります。彼女らがいる観客席と、ずん子たちがいる応援席との距離はそんなに離れていませんが、内容が内容ですから、さすがに叫ぶわけにもいきません。
『「らじゃー」、って口が動きましたよぉ♪ 気付いてくれたんじゃないですか~?』
――いえ、恐らく失敗です……。
そう。失敗でした。ずん子はイタコ姉さまたちに軽く手を振り替えし、「らじゃー」と敬礼をしたあと、(`・ω・´)←こんな表情をして、やる気に満ちた感じで頷きました。どうやら、二人が自分にエールを送ってくれたと勘違いしたようです。ああ非情。めくれあがったブルマは、そのままです。
『あらら~、クラスの皆さんと談笑し始めちゃいましたね~。え~っと、どうしますか~? まーくつーは応援席に入れますからぁ、こっそり耳打ちすることもできますけど~……』
――そらさん、まだまだこれからです。わたしの指導は終わっていませんよ。なんとかして……なんとかして突風のようなものが起こせれば……。
そうですわね。突風で乱れた体操着を直すついでに、ブルマのことにも気付いてくれるかもしれませんわ(;´・ω・)
『突風ですか~。まーくつーの装備ではぁ、突風は起こせませんねぇ……。突風を起こせばまーくつーの見たことがない「何か」を見ることができるならぁ、ぜひ協力したいんですけどぉ……』
「うーん……」と、そらさんたちは三人揃って頭を抱えます。深刻そうな光景なのに、彼女らの悩みはずん子のブルマのため、というのがシュールですが、本人たちはいたって本気です。ですから――不意に後ろから声をかけられて、三人は思わず飛び上がってしまいました。
ちゅっ!?∑(゚ω゚ノ)ノ ……あ、めたちゃんですか、びっくりしたですわ……。めたちゃんのブルマ姿も新鮮……あ、そうですわ!!(o´∀`o)ノ
がばっと両肩を抱くイタコ姉さまの勢いを浴びて、ブルマ姿のめたんの身体がびくっと震えます。ロリータ衣装のせいで普段は露出が少ない分、今日のブルマ姿は警戒心が高まるのでしょうか。胸を除けば意外と華奢な身体のめたんは、ジト目でイタコ姉さまを睨みます。
『ぜひぜひ、今すぐにぃ! まーくつーたちの応援席の近くで起こしてほしいんですよ~♪ そのぉ、えっとぉ、「分かる人だけに分かる秘密のサイン」というかぁ~?』
……? 分からないけど、分かったわ。とりあえず、そらは用事が済んだら応援席に戻ってきなさいよ? それだけ伝えに来たんだから。
『はぁい♪ じゃあ、めたんさまの砂嵐を見届けたら、戻りますね~♪』
「じゃあすぐに実行しないと間に合わないじゃない……」と愚痴を呟きながら、めたんは小さめのお尻をふりふりと揺らして、軽やかに応援席のほうに戻っていきました。応援席で待機しているずん子は、椅子に座るわけでもなく、立ったまま友人たちと談笑しています。
――ふふふ……。そらさん、あなたにもう一つの「宇宙」を見せてあげますよ。ずんねえさまの一挙一動に注目していてくださいね……。
『う、宇宙ですかぁ~? たったの突風一つで宇宙が見られるなんてぇ、初耳です~……』
若干目を血走らせながら、きりたんが戦場カメラマンのような姿勢で、イタコ姉さまのビデオカメラをずん子に向けています。「宇宙」という言葉に反応したそらさんも、彼女の真似をして隣に構えました。――そうです。ここでも、もう一つの勝負、すなわち「運動会」が開かれているのです。
(いや、それはどうなんでしょう……(´・ω・`) まあ、ずんちゃんが気付いてくれるならそれでいいですわ……)
ただ一人、純粋にずん子を心配しているイタコ姉さまが二人のポーズを白い目で見ている間に――ドリル型ステッキ「ハイド」を携えためたんが、ずん子たちの応援席の真後ろに陣取りました。
『ど、どきどきです~♪』
めたんが、地面に「ハイド」を突き刺します。遠くからなのでよく見えませんが、彼女は「ハイド」に何らかの力をこめたあと、凄まじいスピードで、3回だけ、ドリルを回転させます。すると――ドリルの周りの砂塵が吹き上がって、その先にいたずん子を、砂混じりの突風が襲うのでした!
「……………………・///(パクパク」
(あ、ずんちゃんの口が「いや~ん」って動いた……(´・ω・`) なんて古典的な反応をする娘ですの……。まさに「古き良き日本文化の保存と継承」のたまものですわ……)
応援席のずん子は、突然の強風に恥じらいを見せつつも不満そうな顔をすると――風邪で乱れた衣服を直しにかかります。はじめは乱れた髪の毛、次に舞い上がったハチマキ、三番目にシワになった体操着のシャツ。そして――ついに、待ちに待った瞬間が訪れたのでした。
――き……来ましたあああっ!!! わたしも実景を初めて見る、「何気ない素振りでお尻に手を伸ばし、食い込みかけたブルマを伸ばして修正する瞬間」だあああああああああァァァァァァァッ!!!!(カッシャー!!!!
きりちゃん……他にも父兄さんいるから落ち着いてくださいですわ(;´Д`) …………って、なんか父兄さん方からも温かいオーラが(;゚д゚)ェ……………….
あまりに懐かしい光景だったからでしょうか。興奮するきりたんはともかく、彼女の周りで競技を見守っている父兄の方々の視線も、ずん子に向いているような気がするのです。中には立ち尽くしたままポロリと涙を零す人もいて、イタコ姉さまは、自分の価値観が揺らぐのを感じました。
父兄の皆さんが、次々にきりたんに握手を求めに来ます。たった一つのずん子の仕草が、これだけ多くの人を笑顔にするのです。揺らぎつつある価値観の中で、イタコ姉さまは、それでも自分のある考えだけは、間違っていなかったと確信しました。
イタコ姉さまの視線の先には、まるで夢から覚めたばかりのような表情をしたそらさんが棒立ちしています。切れ長の瞳を潤ませて頬を染め、少し息を荒げている彼女はそれだけでも色っぽいのですが――彼女を「そう」したのは、ずん子の、ずん子による、たった一つの所作なのでした。
――ふふっ……。「覚醒」しましたね、そらさん。
『ええ~♪ 勉強になりましたぁ~……。なるほど、この文化は確かに保存してぇ、継承していく価値がありそうですねぇ……///』
――そうでしょう、そうでしょう(ウンウン おめでとうございます、そらさん。あなたの覚醒を祝って、万歳しましょうか。
父兄の皆さんが、きりたんの合図でそらさんの覚醒を祝って万歳三唱します。世にも奇妙な光景に突っ込みたくてたまらないイタコ姉さまでしたが、どう考えてもこの場は突っ込んだほうの負け。彼女は取り残された気分のまま、再び友人たちと談笑するずん子をぼーっと眺めているのでした。
(――お昼休み、東北家シート――)
――…………(ピッ ピッ
ずんちゃん、お疲れさまでしたわ(o'∀'人) 徒競走1着、おめでとうございますですわ!
――…………(ピッ ピッ ピッ
ありがとうございます、イタコ姉さま!(≧▽≦)ゞ
イタコ姉さまとずん子、そしてきりたんが、同じシートのうえに陣取っています。運動会のお昼休みと言えば家族の時間ですから、めたんとそらさんは、気をつかって別の場所でお弁当を食べているようで、久々に姉妹三人でゆっくりできる時間――の、はずでしたが。
……きりたん?(・∀・) さっきからカメラ片手に、何してるの?
――…………(ピッ ピ……ビクゥ!?
――な、なんでもないですよ!?
!?(´゚ω゚)・*;'.、ブッ
まさか、ずん子からそのことに触れてくるとは思わなかったのでしょう。彼女本人は「ちょっとしたうっかりミス」的な感じでかるーく発言しているのですが、午前の部のほとんどをそのことを気にして費やしたイタコ姉さまは、思わずお茶を噴き出してしまいました。
いやー、うっかりでしたねえ( ゚∀゚;)タラー 姉さま、ブルマを履いてるときに気をつけることって他にあるんですか?
……………………あ、あわわわ……プルプル((( ゚д゚;)))プルプル
――…………(素知らぬ目)
あ、あれ?∑(゚д゚;) 二人とも、何が……って、ひょっとして……(;゚д゚)ェ……………….
ずん子の脳裏に、観客席から謎のアピールを続けていたイタコ姉さまたちの姿がよぎります。たぶん応援してくれているのだろう、と好意的に解釈していたずん子でしたが、今考えてみたら、きりたんが彼女に向けていたカメラは、自分の下半身に向けられていたような気がしてきました。
きりたん!ヽ(*`皿´*)ノキィィ──!!!! そのビデオカメラよこしなさい!!(バッ
何が映っていたかはお察しください、というわけでもありませんが、そこには、プロ顔負けの技術によるずん子のあられもない(?)姿が、大量に収められていたのでした。おかげで、ようやく姉さまたちのサインの意味に気付いたずん子は、顔を真っ赤にして震え始めます。
――ず、ずんねえさま? お、怒りながら照れる姿もまことに愛らしゅうございまs……。
没収! カメラは没収です!!(#゚皿゚)
ちゅっ!?∑(゚д゚;) そ、それあたしのカメラですわ!? 悪いのはきりちゃんであって、あたしでは……!!
いーいーかーらー!!ヽ(*`ェ´*)ノ 没収ですー!! あと、きりたんにはおしおきだからね!!ヾ(o゚Д゚o)ノ゙ガォー!!
――その後、やけに余裕だったきりたんを問い詰めたずん子は、そらさんの体内にカメラが内蔵されていることを思い出し――「日本文化継承のため」と言い張る「覚醒」そらさんと論陣を張りますが――それはまた、別のお話。
――おわり―― (※まとめのコメント欄にて、感想を募集していますー! よろしくお願いします!)
次回はこちら http://inove.jp/ivsid1413






















